三浦ノート

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ミンコフスキー時空のペンローズ図を描く

時空の大域的な構造を図示するために,無限に広がる曲がった時空を共形的に変形して平面の有限領域に写して考える方法がある.それをペンローズ図(または共形図)とよぶ.

ここではミンコフスキー時空のペンローズ図を描こう.因果関係を見るために時間座標と動径座標の2次元成分について実際にグラフに表す.ミンコフスキー時空はもともと平坦な時空であるので,単純に有限領域への共形なスケール変換であるとも考えらえる.一方でこの変換によって時空の無限遠点に関する大きな特徴が見えてくる.

単位系は c = G = 1 をもちいる.

目次

共形変換

擬リーマン多様体 (M,g) から別の擬リーマン多様体 (M',g') への写像で,空間の角度が局所的に保存されるものを共形写像とよぶ.(M,g) 上の接ベクトル X,Y のなす角 θ の定義 ${\displaystyle \cos \theta = \frac{g(X,Y)}{\sqrt{g(X,X)g(Y,Y)}}}$ より,共形な変換とは変換後の計量がもとの計量のスカラー倍になることを指す. M=M' の場合,共形写像は共形変換とも呼ぶ.

任意の二次元多様体は2次元ミンコフスキー空間に共形変換できる.

この主張についてここで簡単に確かめる.2次元空間の計量は一般に ds2 = A(t,x)dt2 + B(t,x)dtdx + C(t,x)dx2 と表される.この計量がミンコフスキー時空の計量のスカラー倍として表されることを示せばよい.

そのために,2つの座標変換を行う.はじめに $\sqrt{A}dt=dT+dX\ ,\ \sqrt{C}dx=dT-dX$ という座標変換 (t,x) → (T,X) をすると,計量は $ds^2=(2+\frac{B}{\sqrt{AC}})dT^2+(2-\frac{B}{\sqrt{AC}})dX^2$ となり対角的になる.これは,

\begin{equation} ds^2 = (2+\frac{B}{\sqrt{AC}})dT^2+(2-\frac{B}{\sqrt{AC}})dX^2 = -(2+\frac{B}{\sqrt{AC}})(-dT^2+\frac{\frac{B}{\sqrt{AC}}-2}{2+\frac{B}{\sqrt{AC}}}dX^2) \end{equation}

と式変形できるので,もう一度,

\begin{equation} dT'=dT \ ,\ dX' = \sqrt{ \frac{\frac{B}{\sqrt{AC}}-2}{2+\frac{B}{\sqrt{AC}}}}dX \end{equation}

という座標変換 (T,X) → (T',X') をすれば,

\begin{equation} ds^2 = -(2+\frac{B}{\sqrt{AC}})(-dT'^2+dX'^2) \end{equation}

となり,ミンコフスキー時空 (T',X') の計量 -dT'2 + dX'2 のスカラー倍として表すことができた.

一般にこのように共形変換によって平坦時空へ写すことのできる空間を共形的に平坦であるという.

ミンコフスキー時空のペンローズ図

静的アインシュタイン宇宙SE4への共形変換

4次元ミンコフスキー時空の計量は,時間座標 t (0 < t < ∞) ,動径座標 r (0 < r < ∞) , 天頂角 θ (0 < θ < π) ,方位角 $\phi$ (0 < $\phi$ < 2π) をもちいて,

ds2 = - dt2 + dr2 + r2 ( dθ2 + sin2θ d$\phi$2 )

と表される.この空間の θ,$\phi$ 成分を無視した2次元の部分 ds2 = - dt2 + dr2 について,測地線は直線である.原点から伸びる測地線のようすを以下に示す.

f:id:OviskoutaR:20180321012416p:plain
図1 共形変換をする前の2次元ミンコフスキー時空の原点から各方向へ伸びる測地線の様子.
縦軸は時間 t ,横軸は原点からの距離 r である.直線群 { t = vr }v を描画している.

斜め45°の直線は t = r となる光の経路でありヌル測地線と呼ぶ.| t | > r の領域(緑色)にある測地線は時間的測地線,| t |< r の領域(青色)にある測地線は空間的測地線とよぶ.この無限に伸びる測地線を有限の領域に変換することを考える.

ここで,以下の座標変換 ( t,r ) → ( η,χ ) を行うと元の計量を有限な大きさの時空計量のスカラー倍として表すことができる.

\begin{equation} \eta\pm \chi= \tan^{-1} \frac{t\pm r }{2} \label{eq:minpentr} \end{equation}

この変換をどうやって見つけたのかわからないが,無限に伸びる光円錐座標軸 t ± r に関してtan-1 関数を用いて上限を有限値に抑えようという意図が見えると思う.

この変換によって計量は

\begin{align} ds^2 &=\frac{1}{4} \sec^2 \frac{\eta+\chi}{2} \sec^2 \frac{\eta-\chi}{2} ds^{2}_{SE} \\ ds^{2}_{SE} &\equiv -d\eta ^2+ d\chi ^2+\sin ^2 \chi (d \theta^2 + \sin^2 \theta d \phi^2) \\ |\eta \pm \chi|&< \pi \end{align}

となる.つまり,ミンコフスキー時空は共形的に ds2SE という計量をもつ有限時空上に変換されることがいえる.計量がds2SE である時空のことを4次元の静的アインシュタイン宇宙 SE4という.この時空 SE4 の極座標 θ ,$\phi$ の部分を無視した2次元の部分(これは2次元ミンコフスキー時空の計量である.)について3つの図を以下に示す.

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図2 ミンコフスキー時空のペンローズ図の測地線の様子
共形変換をしてミンコフスキー時空を静的アインシュタイン宇宙に埋め込んだものである.縦軸は η ,横軸は χ を表す.図1 の各直線 t = vr を式\eqref{eq:minpentr} で変換したものを描画している.

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図3 ミンコフスキー時空のペンローズ図の格子線の様子
図2と同じ図であるが,こちらは t 一定,r 一定の直線群を式\eqref{eq:minpentr} で変換したものを描画している.

図4 ミンコフスキー時空のペンローズ図の測地線の時間座標の初期値を変化させてみたもの.
t0 のスライドを上下に動かすことで原点から時間を t0 だけずらした場合の測地線が描画される.
geogebraの共有機能で表示している.

ミンコフスキー時空のペンローズ図の特徴

図2 では,未来へ伸びる時間的測地線がある一点 i+ に集まっている.これを未来の無限遠点という.また,空間的測地線もある一点 i0 に集まっている.これを空間的無限遠点という.光の経路であるヌル測地線は45°のまま境界 $\mathscr{I}^+$ へと向かっている.これを未来のヌル無限遠境界という.同様に過去の無限遠点 i-過去のヌル無限遠境界 $\mathscr{I}^-$ も存在する.以上のように測地線の行き先から時空の無限遠点の分類が行われる.これらがそれぞれ一点に収束するのか,境界面として広がっているのかなど,各時空によってペンローズ図に異なる特徴が顕れる.

参考文献

一般相対性理論【現代物理学叢書】 (岩波オンデマンドブックス)

一般相対性理論【現代物理学叢書】 (岩波オンデマンドブックス)

光円錐座標系 - Wikipedia

ペンローズ図 - Wikipedia