三浦ノート

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時間に依存しない,縮退がある時の摂動まとめ

時間に依存しない,縮退がある時の摂動論の問題設定と計算方法をまとめる.

問題

問題は縮退がない場合と同じである.→ http://oviskoutar.hatenablog.com/entry/2017/09/27/124420

非摂動ハミルトニアン $\hat{H}_0$ と摂動ポテンシャル $\hat{V}$ と微小パラメータ $\lambda$ によって \begin{equation} \hat{H}=\hat{H}_0+\lambda \hat{V} \end{equation} という形をした,時間に依存しないハミルトニアン $\hat{H}$ で表される量子系の解 $\{(E_n , |n \rangle)\}_{n}$ を近似的に求める.

ここでは与えられる $\hat{H}_0$ の厳密解 $\{(E^{(0)}_n , |n^{(0)} \rangle)\}_{n}$ が縮退している場合を考える.

非摂動固有状態 $\{|n^{(0)} \rangle\}_{n}$ の中の $g$ 個の固有状態が同じエネルギー固有値 $E^{(0)}_D$ を持つとする.この $g$ 重縮退した固有状態のラベルの集合 $\mathbb{D}\equiv\{n ;\hat{H}_0 |n^{(0)} \rangle=E^{(0)}_D |n^{(0)} \rangle \}$ を定義し,$\mathbb{D}$ の要素を新たなラベル$m=1,\cdots,g$ を用いて表すとする.すなわち,任意の数 $m \in \mathbb{D}$ に対し, $\hat{H}_0 |m^{(0)} \rangle=E^{(0)}_D |m^{(0)} \rangle $ と表される.

縮退のない解 $\{(E^{(0)}_n , |n^{(0)} \rangle)\}_{n} \backslash \{(E^{(0)}_D , |m^{(0)} \rangle)\}_{m}$ については縮退のない摂動論の方法を適用すればよい.ここでは縮退のある解の部分だけを考える.

方法

摂動によって縮退は解かれ,摂動ハミルトニアン $\hat{H}$ のエネルギー固有値 $E_n$ は非縮退になることを期待する.つまり,非摂動ハミルトニアン $\hat{H}_0$ では縮退していた $g$ 個の解 $\{(E^{(0)}_D , |m^{(0)} \rangle)\}_{m}$ から摂動ハミルトニアン $\hat{H}$ の縮退のない $g$ 個の新たな解 $\left\{(E_l , |l \rangle)\right\}_{l=1}^g$ を構成する.

以下のようにこれらの解を展開する. $$ \begin{eqnarray} |l \rangle &=&|l^{(0)} \rangle + \lambda |l^{(1)} \rangle + \lambda ^2 |l^{(2)} \rangle + \cdots \\ E_l &=& E^{(0)}_D + \lambda E^{(1)}_l + \lambda ^2 E^{(2)}_l + \cdots \end{eqnarray} $$

これらの式を摂動ハミルトニアン $\hat{H}$ の固有値方程式に代入し, $\lambda$ の次数ごとに係数比較して高次の摂動固有状態を求める.

$|l^{(0)} \rangle$ は $|m^{(0)} \rangle$ から基底を取り換えただけの状態である.すなわち, $$|l^{(0)} \rangle= \sum_{m=1}^g \langle m^{(0)}|l^{(0)} \rangle |m^{(0)} \rangle$$ と表される.この0次の状態ではまだ縮退はある.すなわち,$\hat{H}_0 |l^{(0)} \rangle=E^{(0)}_D |l^{(0)} \rangle $.1次以上の摂動状態から縮退が解けることを期待する.

結果(エネルギー固有値の1次の摂動について)

非摂動固有状態 $\{|m^{(0)} \rangle\}_{m}$ における摂動ポテンシャル $\hat{V}$ の行列要素 $V_{mk}\equiv \langle m^{(0)}|\hat{V}|k^{(0)} \rangle$ を定義する.これを用いると,固有値の1次の摂動 $E^{(1)}_l$ は $g \times g$ 行列 $$(V_{mk})= \begin{pmatrix} V_{11} & V_{12} & \cdots & V_{1g} \\ V_{21} & V_{22}& \cdots & V_{2g} \\ \vdots & \vdots & \ddots & \vdots \\ V_{g1} & V_{g2} & \cdots & V_{gg}
\end{pmatrix} $$

の $g$ 個の固有値である.重根がある場合は1次の摂動では縮退がすべて解けないということであり,2次以降の摂動で縮退が解けることを期待する.

また,この固有値 $E^{(1)}_l$ $(l=1,\cdots,g)$ に対応した $g$ 個の固有ベクトルは $$\langle m^{(0)}|l^{(0)} \rangle= \begin{pmatrix} \langle 1^{(0)}|l^{(0)} \rangle \\ \vdots \\ \langle g^{(0)}|l^{(0)} \rangle \end{pmatrix} \\ (l=1,\cdots,g)$$ に対応している.よって, $|m^{(0)} \rangle$ から基底を取り換えた0次の固有状態 $\{|l^{(0)} \rangle\}_{l=1}^g$ が決定する.



参考文献