半径が a の2次元球面 S2 の計量は
ds2 = a2( dθ2 + sin2θ d$\phi$2 )
a:定数,0 ≤ θ ≤ π ,0 ≤ $\phi$ < 2π .
である.
この空間のKillingベクトル場は
\begin{align}
K_1 &= \frac{\partial}{\partial \phi} \label{eq:K1} \\
K_2 &= \cos \phi \frac{\partial}{\partial \theta} - \cot \theta \sin \phi \frac{\partial}{\partial \phi} \label{eq:K2} \\
K_3 &= -\sin \phi \frac{\partial}{\partial \theta} - \cot \theta \cos \phi \frac{\partial}{\partial \phi} \label{eq:K3}
\end{align}
である
このベクトル場は SO(3) の変換群となっている. このKillingベクトル場を一般の形で導出しよう.
$\def\pounds{{\it\unicode{xA3}}}$
目次
記法
x1 = θ , x2 = $\phi$ として表す.テンソルの添え字に使うギリシャ文字は 1,2 のいずれかを表す.
∂μ := $\frac{\partial}{\partial x^\mu}$
アインシュタインの総和の規約を用いる.
£ はLie微分演算子
∇ は共変微分演算子
等長変換
擬Riemann多様体 (M,g) に対して計量 g を保存する変換 f : M → M を多様体 M の等長変換と呼ぶ(i.e. 点 x ∈ M での計量テンソル gx に対し gf(x) = gx (⇔ gx = gf-1(x)) ).計量が保存されるという条件はベクトルの内積が保存されるということであり,等長変換は測地線をその変換後の時空の測地線に写す.
2つの等長変換 f1 , f2 の合成 f1 ◦ f2 はまた等長変換となる(∵ gf1 ◦ f2(x) = gf1( f2(x) ) = g f2(x) = gx ).また,等長変換 f の逆変換も等長変換となる(∵ gf-1(x) = gx ).以上から,等長変換の全体は恒等変換を単位元とする群をなすことが言える.この群のことを擬Riemann多様体 (M,g) の等長変換群とよぶ.たとえば,n 次元Euclid空間 En(つまり正定計量の平坦空間)の等長変換は { 並進・回転・反転 } の全体からなるEuclid運動群 E(n) であり,n次元Minkowski時空(つまり不定計量の平坦時空)の等長変換は { Lorentzブースト・空間回転・並進 } の全体からなるPoincaré群 $\mathcal{P} (n)$ である.等長変換群を生成する無限小変換を調べることにより群の構造をくわしく調べることができる.
Killingベクトル場とKilling方程式
いま,fλ を λ をパラメータとした多様体 (M,g) の等長変換群,その無限小変換を X ( ≡ dfλ / dλ ) とする.gfλ(x) = gx より,計量 g のLie微分は
\begin{equation}
\pounds_X g=\lim_{\lambda \to 0} \frac{g_{f_\lambda(x)}-g_x}{\lambda}=\lim_{\lambda \to 0} \frac{g_x-g_x}{\lambda} =0
\end{equation}
である.逆に,£X g = 0 ならば,gfλ(x) のパラメータ λ に対する変化量は
\begin{equation}
\frac{d}{d\lambda}g_{f_\lambda (x)}=\lim_{\Delta \lambda \to 0} \frac{g_{f_{\Delta \lambda+\lambda}(x)}-g_{f_\lambda(x)}}{\Delta\lambda}= \left(\lim_{\Delta \lambda \to 0} \frac{g_{f_{\Delta \lambda}(x)}-g_x}{\Delta\lambda} \right)_{f_\lambda (x)}=(\pounds_X g)_{f_\lambda (x)}=0
\end{equation}
であるから gfλ(x) = gx.すなわち fλ は等長変換となる.したがって,等長変換群と £X g = 0 をみたすベクトル場 X とは1対1に対応する.つまり,このベクトル場は空間の対称な変換と1対1で対応して考えることができる.このベクトル場 X をKillingベクトル場とよぶ.
また,Riemann接続において捩率テンソル Θ はゼロであるので Θ の定義より,£X Y = [ X,Y ] = ∇XY - ∇YXである*1 .このことから任意のベクトル場 X,V,W に対し,
\begin{equation}
(\pounds_X g)(V,W) = V^\mu W^\nu ( (\nabla_\mu X)_\nu +(\nabla_\nu X)_\mu)
\end{equation}
となるので,
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\begin{align}
(\pounds_X g)(V,W) &= \pounds_X (g(V,W))-g(\pounds_X V,W)-g(V,\pounds_X W) \\
&= \underbrace{X(g(V,W))}_{=\nabla_X(g(V,W))}-g([X,V] ,W) -g(V, [X,W]) \\
&= \nabla_X(g(V,W))-g(\nabla_X V - \nabla_V X ,W) -g(V, \nabla_X W -\nabla_W X) \\
&= \underbrace{\nabla_X(g(V,W))-g(\nabla_X V,W)-g(V,\nabla_X W)}_{=\underbrace{(\nabla_X g)}_{計量条件より=0} (V,W)} +g(\underbrace{\nabla_V X}_{=V^\mu \nabla_\mu X} ,W) +g(V,\underbrace{\nabla_W X}_{=W^\nu \nabla_\nu X}) \\
&= V^\mu \underbrace{g( \nabla_\mu X ,W)}_{=(\nabla_\mu X)_\nu W^\nu} +W^\nu \underbrace{g(V , \nabla_\nu X)}_{=V^\mu (\nabla_\nu X)_\mu} \\
&= V^\mu W^\nu ( (\nabla_\mu X)_\nu +(\nabla_\nu X)_\mu)
\end{align}
ベクトル場 X がKillingベクトル場である条件 £X g = 0 は座標成分では
\begin{equation}
(\pounds _X g)_{\mu \nu}= (\nabla_\mu X)_\nu +(\nabla_\nu X)_\mu=0 \label{eq:killing}
\end{equation}
と表される.この微分方程式をKilling方程式とよぶ.Killing方程式を解くことでKillingベクトル場がえられる.この方程式の独立な解の個数には上限があり,それは n 次元の空間に対して n(n+1)/2 個であることが知られている*2 .つまり空間が持つ対称性の数には上限があることが言える.
球面 S2 のKillingベクトル場 *3
計量の成分は g11 = a2 , g22 = a2sin2θ , g12 =g21 = 0 である.
Christoffel記号
2次元球面のChristoffel記号 Γμνλ は
\begin{align}
({\Gamma ^1}_{μν}) &= \begin{pmatrix} 0&0 \\ 0&-\sin \theta \cos \theta \end{pmatrix} \\
({\Gamma ^2}_{μν}) &= \begin{pmatrix} 0&\cot \theta \\ \cot \theta&0 \end{pmatrix}
\end{align}
である.*4
Killing方程式を解く.
Killingベクトル場を X = Xμ ∂μ = X1 ∂1+ X2 ∂2 とする.( X1 = g1μ Xμ = a2 X1 , X2 = g2μ Xa = a2sin2θ X2 )
Killing方程式は式$\eqref{eq:killing}$より,
\begin{equation}
\begin{pmatrix}
2(\nabla_1 X)_1 & (\nabla_1 X)_2 +(\nabla_2 X)_1 \\
(\nabla_2 X)_1 +(\nabla_1 X)_2 & 2(\nabla_2 X)_2
\end{pmatrix}
=0
\end{equation}
と表される.左辺の行列の成分をまずは計算しよう.
11成分は 2a2 ∂1X1 である.
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∇1X = ∇1( Xμ ∂μ ) = ( ∇1Xμ ) ∂μ + Xμ( ∇1∂μ ) = ( ∂1Xμ ) ∂μ + Xμ Γν1μ∂ν = ( ∂1Xμ + Xν Γμ1ν ) ∂μ
( ∇1X )1 = ∂1X1 + Xν Γ11ν
2( ∇1X )1 = 2g1μ ( ∇1X )μ = 2g11 ( ∇1X )1
= 2g11 ( ∂1X1 + Xν Γ11ν )
= 2a2 ( ∂1X1 + X1 Γ111 + X2 Γ112 )
= 2a2 ∂1X1
同様に12成分は a2 sin2θ ∂1X2 + a2 ∂2X1 ,22成分は 2a2 sin2θ ∂2X2 + 2a2 sinθ cosθ X1 である.
である.したがって,Killing方程式は以下のようにあらわされる.
\begin{align}
∂_1 X^1 &= 0 \label{eq:kill11} \\
\sin^2θ ∂_1X^2 + ∂_2X^1 &=0 \label{eq:kill12} \\
\sin^2 θ ∂_2 X^2 + \sin θ \cos θ X^1 &= 0 \label{eq:kill22}
\end{align}
これらを解こう.
式$\eqref{eq:kill11}$より,X1 = u($\phi$) ( $\phi$ についての任意関数)と表される.
また,式$\eqref{eq:kill12}$ の両辺を $\phi$ で微分した式より $\phi$ に関する2階常微分方程式 $\frac{d^2u(\phi)}{d\phi ^2}+u(\phi) =0$ が得られ,
u($\phi$) = A sin$\phi$ + B cos$\phi$ (A,Bは任意定数)である.
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式$\eqref{eq:kill12}$ の両辺を $\phi$ で微分し,式\eqref{eq:kill22}を用いて,
\begin{align}
& \underbrace{\sin ^2 \theta \underbrace{(\partial_2 \partial_1 X^2)}_{=\partial_1 \partial_2 X^2 }}_{=\partial_1 (\sin ^2 \theta \partial_2 X^2) - 2\sin \theta \cos \theta \partial_2 X^2} + \frac{d^2 u(\phi)}{d\phi^2} = 0 \\
\Leftrightarrow \quad &\underbrace{\partial_1 (- \sin \theta \cos \theta u(\phi))}_{=-(\cos^2 \theta - \sin^2 \theta ) u(\phi) )} - 2 \underbrace{\cot \theta \underbrace{\sin^2 \theta \partial_2 X^2}_{=- \sin \theta \cos \theta u(\phi)}}_{=-\cos^2 \theta u(\phi)} + \frac{d^2 u(\phi)}{d\phi^2} = 0 \\
\Leftrightarrow \quad &\underbrace{-( \cos^2 \theta - \sin^2 \theta - 2 \cos^2 \theta )}_{=1} u(\phi) + \frac{d^2 u(\phi)}{d\phi^2} =0 \\
\Leftrightarrow \quad & u(\phi) + \frac{d^2 u(\phi)}{d\phi^2} =0 \\
\Leftrightarrow \quad & u(\phi) = A \sin \phi + B \cos \phi
\end{align}
次に,式$\eqref{eq:kill22}$ を ∂2 X2 + cotθ u($\phi$) = 0 と書き換えて先ほど求めた u($\phi$) を代入すると,
∂2 X2 + cotθ (A sin$\phi$ + B cos$\phi$) = 0 .
この式を $\phi$ について積分することで,
X2 = A cotθ cos$\phi$ - B cotθ sin$\phi$ + F(θ) .(F(θ) はθについての任意関数)
よって式$\eqref{eq:kill12}$ より,
sin2θ { A ( - cosec2θ ) cos$\phi$ - B ( - cosec2θ ) sin$\phi$ + ∂1F(θ) } + A cos$\phi$ - B sin$\phi$ = 0
⇔ sin2θ ∂1F(θ) = 0
⇔ F = C (Cは任意定数)
である.よって Killing方程式を満たすベクトル場 X の成分の一般形は
X1 = A sin$\phi$ + B cos$\phi$
X2 = A cotθ cos$\phi$ - B cotθ sin$\phi$ + C
となる.
式$\eqref{eq:K1},\eqref{eq:K2},\eqref{eq:K3}$ はそれぞれ,A = B = 0 , A = C = 0 , B = C = 0 の場合を指している.
参考文献