位相空間論のコンパクト性についての例題を解きましたので,解答を載せていきます. $\DeclareMathOperator*{\scup}{\cup}$
目次
- 定義
- コンパクトではない集合の例
- n次元ユークリッド空間 $ \mathbb{R} ^ n $ はコンパクトではない
- 密着空間 $ (X, \{\emptyset,X \} ) $ はすべての部分集合がコンパクトである
- 2つのコンパクト集合の和集合もコンパクト集合である
- コンパクト空間の閉部分集合はコンパクトである.
- 直交行列全体の集合はコンパクトである.
- 閉区間[0,1]と開区間(0,1)は同相ではない
- 閉区間[0,1]と1次元ユークリッド空間 $ \mathbb{R} $ は同相ではない
- 1次元ユークリッド空間 $ \mathbb{R} $ がコンパクトにならない位相の例
- 特殊線形群 $ SL _ 2(\mathbb{ R} ) $ はコンパクトではない
定義
位相空間 $ (X,\mathcal{O}) $ 上の部分集合 $ A $ の開被覆とは,開集合族
のことをいう. $ \Lambda $ が有限集合の場合,有限開被覆という.
位相空間 $ (X,\mathcal{O}) $ 上の部分集合 $ A $ がコンパクト(集合)である.
⇕def
$ A $ の任意の開被覆 $ \{U _ \lambda \} _ {\lambda\in\Lambda} $ に対して,有限個の添え字
が存在する.
(i.e. 任意の開被覆が有限部分開被覆を持つ)
とくに全空間 $ X $ がコンパクトの時, $ (X,\mathcal{O}) $ をコンパクト空間という.
・対偶
$ A $ がコンパクト集合ではない.
⇕
$ A $ の開被覆 $ \{U _ \lambda \} _ {\lambda\in\Lambda} $ で,その有限部分集合 $ \{U _ {\lambda _ i} \} _ {i=1} ^ n ~(\lambda _ i\in\Lambda) $ の全てが $\displaystyle A \not\subset \scup _ {i=1} ^ n U _ i $ となるものが存在する. (i.e. 有限部分被覆ができない開被覆が存在する.)
集合 $ X $ に対し, $\{\emptyset,X\} $ は $ X $ の位相となり, $ (X, \{\emptyset,X\} ) $ を密着空間という.
・ハイネ―ボレルの定理
$ n $ 次元ユークリッド空間の部分集合 $ K $ がコンパクトである.⇔ $ K $ は有界閉集合である.
コンパクトではない集合の例
1次元ユークリッド空間 $ \mathbb{R} $ 内の開区間 $ A=(0,1) $ はコンパクトではない.
・証明
開区間 $ O _ n := (0, 1-\frac{1}{n}) $ は任意の $ n\in \mathbb{N} $ において $ \mathbb{R} $ の開集合であり,
なので, $ \{O _ n\} _ {n\in\mathbb{N}} $ は $ A $ の開被覆である.
しかし,この開被覆 $ \{O _ n\} _ {n\in\mathbb{N}} $ のどんな有限部分集合を取っても $ A $ を被覆することはできない.
実際,任意の有限部分集合 $ \{O _ {n _ i}\} _ {i=1} ^ n ~(n _ i \in \mathbb{N})$ は,
を含まない,
よって, $ A $ はコンパクトではないことが言える.
n次元ユークリッド空間 $ \mathbb{R} ^ n $ はコンパクトではない
開球 $ B _ n(0;m) := \{ x\in \mathbb{R} ^ n ~|~ d(0,x) < m \} $ は開集合である.
$ \{B _ n(0,m)\} _ {m\in\mathbb{N} } $ は $ \mathbb{R} ^ n $ を被覆する.
しかし, $ \{B _ n(0,m)\} _ {m\in\mathbb{N} } $ のどんな有限部分集合をとっても $ \mathbb{R} ^ n $ を被覆することはできない.
よって, $ \mathbb{R} ^ n $ はコンパクトではないことが言える.
密着空間 $ (X, \{\emptyset,X \} ) $ はすべての部分集合がコンパクトである
空でない部分集合 $ A \subset X $ に対し,この開被覆は全部で $ \{X\} , \{\emptyset,X\} $ である.これはどちらも有限被覆である.
$ A=\emptyset $ の場合は, $ A $ の開被覆は $ \{\emptyset\} , \{X\}, \{\emptyset,X\} $ である.これらは全て有限被覆である.
よって,任意の $ A\subset X $ はコンパクトである.
2つのコンパクト集合の和集合もコンパクト集合である
位相空間 $ X $ のコンパクト集合 $ K _ 1,K _ 2 $ と,その和集合 $ K:= K _ 1 \cup K _ 2 $ を考える.
$ K $ の任意の開被覆 $ \{U _ \lambda\} _ {\lambda\in \Lambda} $ は $ K _ 1,K _ 2 $ の開被覆でもある.
$ K _ 1,K _ 2 $ のコンパクト性より, $ K _ 1 $ の有限被覆 $ \{ U _ {\lambda _ i} \} _ {i=1} ^ n ~(\lambda _ i \in \Lambda) $ と, $ K _ 2 $ の有限被覆 $ \{ U _ {\lambda _ i} \} _ {i=n+1} ^ m ~(\lambda _ i\in \Lambda) $ が存在する.
$\displaystyle K \subset \scup _ {i=1} ^ m U _ {\lambda _ i} $ である.
よって $ K $ はコンパクトである.
コンパクト空間の閉部分集合はコンパクトである.
コンパクト空間 $ X $ の閉部分集合 $ F $ の任意の開被覆 $ \{U _ \lambda\} _ {\lambda\in\Lambda} $ を考える.
$ F $ の補集合 $ F ^ c := X-F $ は開集合であり, $\{ \{U _ \lambda\} _ {\lambda\in\Lambda} , F ^ c \}$ は $ X $ の開被覆となる.
$ X $ のコンパクト性より, $ X $ の有限被覆 $ \{\{ U _ {\lambda _ i} \} _ {i=1} ^ n , F ^ c\} ~(\lambda _ i \in \Lambda)$ が存在する.
よって
なので,
である.よって $ \{ U _ {\lambda _ i} \} _ {i=1} ^ n $ は $ F $ の有限被覆である.
よって, $ F $ はコンパクトである.
直交行列全体の集合はコンパクトである.
実数を成分に持つ2次正方行列全体の集合を $ M(2,\mathbb{ R }) $ とする. $ M(2,\mathbb{ R }) $ の4つの成分を4次元ユークリッド空間 $ \mathbb{ R } ^ 4 $ の成分とみなすことで, $ M(2,\mathbb{ R }) $ に $ \mathbb{ R } ^ 4 $ の通常の位相を考える.
$ O _ 2(\mathbb{ R }) $ を2次直交行列全体の集合としたとき,この集合は $ M(2,\mathbb{ R }) $ のコンパクト集合になる.
・証明
直交行列を $ T = \begin{pmatrix}x & y \\ z & w\end{pmatrix} $ とする.
直交行列の条件より,
より, $ x ^ 2 +z ^ 2 = y ^ 2+w ^ 2 =1 ~\Rightarrow ~ x ^ 2 + y ^ 2+z ^ 2 +w ^ 2 =2 $ である.
すなわち,
である.3次元球面 $ S ^ 3 $ は有界閉集合なのでハイネ―ボレルの定理よりコンパクトである.
そして, $ S ^ 3 $ の閉部分集合 $ O _ 2(\mathbb{ R }) $ もコンパクトである.
閉区間[0,1]と開区間(0,1)は同相ではない
1次元ユークリッド空間 $ \mathbb{R} $ 内の部分集合に通常の位相の相対位相をあたえて考える.
このとき,閉区間[0,1]と開区間(0,1)は同相ではない.
・証明
$ [0,1] \simeq (0,1) $ と仮定する.
よって,同相写像 $ f : [0,1] \to (0,1) $ が存在する.
[0,1] は $ \mathbb{R} $ 内の有界閉集合なので,ハイネ―ボレルの定理より [0,1] はコンパクトである.
よって, $ (0,1) = f([0,1]) $ はコンパクトである.
しかし,実際は (0,1) はコンパクトではないので矛盾する.
よって, $ [0,1] \not\simeq (0,1) $ である.
閉区間[0,1]と1次元ユークリッド空間 $ \mathbb{R} $ は同相ではない
$ [0,1] \simeq \mathbb{R} $ と仮定する.
よって,同相写像 $ f : [0,1] \to \mathbb{R} $ が存在する.
[0,1] は $ \mathbb{R} $ 内の有界閉集合なので,ハイネ―ボレルの定理より [0,1] はコンパクトである.
よって, $ \mathbb{R} = f([0,1]) $ はコンパクトである.
しかし,実際は $ \mathbb{R} $ はコンパクトではないので矛盾する.
よって, $ [0,1] \not\simeq \mathbb{R} $ である.
1次元ユークリッド空間 $ \mathbb{R} $ がコンパクトにならない位相の例
実数全体 $ \mathbb{R} $ の部分集合族 $ \mathcal { O } = \{ ( a , + \infty ) | a \in \mathbb { R } \} \cup \{ \emptyset , \mathbb { R } \} $ は, $ \mathbb{R} $ の位相になる.
参考 位相空間の開集合・閉集合・連続写像の例題 - 三浦と窮理とブログ
この位相空間 $ (\mathbb{ R },\mathcal{ O }) $ はコンパクトではない.
・証明
$ \{( a , + \infty )\} _ {a\in\mathbb{ R }} $ は $ \mathbb{ R } $ の開被覆である.
しかし, $ \{( a , + \infty )\} _ {a\in\mathbb{ R }} $ からどんな有限部分集合をとっても $ \mathbb{ R } $ を被覆することはできない.
実際,任意の有限部分集合 $ \{( a _ i , + \infty )\} _ {i=1} ^ n ~(a _ i\in\mathbb{ R }) $ に対して, $\displaystyle \min _ i \{a _ i\} -1 \notin \scup _ {i=1} ^ n ( a _ i , + \infty ) $ である.
特殊線形群 $ SL _ 2(\mathbb{ R} ) $ はコンパクトではない
実数を成分に持つ2次正方行列全体の集合を $ M(2,\mathbb{ R }) $ とする. $ M(2,\mathbb{ R }) $ の4つの成分を4次元ユークリッド空間 $ \mathbb{ R } ^ 4 $ の成分とみなすことで, $ M(2,\mathbb{ R }) $ に $ \mathbb{ R } ^ 4 $ の通常の位相を考える.
$ \mathbb{ R } ^ 4 $ にはユークリッド距離 $ d $ を与えるとする.
このとき, $ SL _ 2(\mathbb{ R }) $ は非有界なのでハイネ―ボレルの定理より $ \mathbb{ R } ^ 4 $ のコンパクト集合ではない.
すなわち, $ SL _ 2(\mathbb{ R }) $ は $ M(2,\mathbb{ R }) $ のコンパクト集合ではない.
・非有界性の証明
任意の実数 $ M>0 $ に対して, $ P(M) := \begin{pmatrix}M & 0 \\ 0 & \frac{1}{M}\end{pmatrix} \in SL _ 2(\mathbb{ R }) $ は, $ d(0,P) = \sqrt{M ^ 2 + \frac{1}{M ^ 2} } >M $ である.
よって任意の半径 $ M $ よりも原点から遠い元 $ P(M) \in SL _ 2(\mathbb{ R }) $ が存在するので, $ SL _ 2(\mathbb{ R }) $ は非有界である.