縮小写像の原理(バナッハの不動点定理)を用いて次の命題を示そう.
バナッハの不動点定理 - Wikipedia
1 くり返した写像について
(X,d) を完備な距離空間,f : X → X を写像とする.この写像を k 回くり返した写像 fk = f ◦ f ◦…◦ f が k ≥ 2 において縮小写像であるとする.
このとき,f は X 上に不動点を一つ持つ.
証明
存在性
(X,d) は完備な距離空間であり,fk は縮小写像なので,縮小写像の原理よりfk(x) = x となる x ∈ X が一意的に存在する.一方で fk(f(x)) = f(fk(x)) = f(x) なので f(x) は fk の不動点である.fk の不動点の一意性よりf(x) = x である.すなわち f も不動点を持つことが言えた.
一意性
任意の x , x' ∈ X に対してf(x) = x , f(x') = x' と仮定する.この仮定よりfk(x) = x , fk(x') = x' なのでx とx' はどちらも fk の不動点である.fk の不動点の一意性よりx = x' である.よって f の不動点は一意に存在することが示された.
2 非線形積分方程式への応用
C[0,1] = { f : [0,1] → ℝ | f は連続関数 } ,||u|| := max{ u(x) | 0 ≤ x ≤ 1 } とする.ある定数 α ∈ ℝ と,ある連続関数 f ∈ C[0,1] に対して,u に関する次の非線形積分方程式
\begin{equation}
u(x) = \alpha \int_{0}^{1} \sin u(y) dy + f(x) \label{eq:int}
\end{equation}
は |α| < 1 ならば解を一つ持つ.
証明
X := C[0,1],距離関数 $ d(u,v):= ||u-v|| ~(\forall u,v \in X)$ として,$ (X,d) $ は完備である.
写像 $ F:X\to X $ を
\begin{equation}
F(u)(x) := \alpha \int_{0}^{1} \sin u(y) dy + f(x) ~(u\in X)
\end{equation}
とおく.$ |\alpha|<1 $ のとき F は縮小写像になることを示そう.
$ \forall u,v \in X $ に対し,
\begin{align}
d(F(u),F(v)) &= ||F(u)-F(v) ||
\\
&= \max_{0\le x \le 1} |F(u)(x)-F(v)(x)|
\\
&= \max_{0\le x \le 1} \left |\alpha \int_{0}^{1} \sin u(y) dy - \alpha \int_{0}^{1} \sin v(y) dy\right | \\
&= |\alpha| \left |\int_{0}^{1} (\sin u(y) - \sin v(y)) dy \right |
\\
&\le |\alpha| \int_{0}^{1}| \sin u(y) - \sin v(y) |dy \\
&\le |\alpha| \underbrace{\int_{0}^{1}dy}_{=1}\max_{0\le y \le 1}| \sin u(y) - \sin v(y) |
\\
&=|\alpha| \max_{0\le y \le 1} 2\left | \sin \left (\frac{u(y)-v(y)}{2} \right ) \cos \left (\frac{u(y)+v(y)}{2} \right ) \right | \\
&\le 2|\alpha| \max_{0\le y \le 1} \underbrace{\left | \sin \left (\frac{u(y)-v(y)}{2} \right ) \right |}_{\le \frac{|u(y)-v(y)|}{2}} \underbrace{\left |\cos \left (\frac{u(y)+v(y)}{2} \right ) \right |}_{\le 1}
\\
&\le |\alpha| \max_{0\le y \le 1} |u(y)-v(y)|
\\
&= |\alpha| d(u,v)
\end{align}
となる.よって $ |\alpha|<1 $ の場合, F は縮小写像である.よって縮小写像の原理より F(u)=u となる関数 u ∈ X が1つ存在する.すなわち式 \eqref{eq:int} の解が1つ存在することが示された.