命題
(a) エルミート演算子の固有値は実数である.
(b) 1つのエルミート演算子の異なる固有値に対応する固有状態は互いに直交する.
(a)の証明
あるエルミート演算子 $\hat{A}$ に対して,その固有状態を $|a_i \rangle$ ,固有値を複素数 $a_i $ とする(添え字 $i$ は0を含む自然数).すなわち $i$ 番目の固有値方程式は $$\hat{A} |a_i \rangle = a_i |a_i \rangle \tag{1}$$ と表される.エルミート性より $\hat{A}^{\dagger} =\hat{A}$ なので,$j$ 番目の固有値方程式の両辺のエルミート共役をとると,
$$\langle a_j | \hat{A}=a_j^* \langle a_j| \tag{2}$$
となる.式(1)の両辺に左から $\langle a_j |$ をかけ,式(2)の両辺に右から $|a_i \rangle$ をかける.
\begin{eqnarray} \langle a_j | \hat{A} |a_i \rangle &=& a_i \langle a_j |a_i \rangle \tag{3} \quad \\ \langle a_j | \hat{A} |a_i \rangle &=& a_j^* \langle a_j|a_i \rangle \tag{4} \end{eqnarray}
$(3)-(4)$ より, $$(a_i -a_j^{*})\langle a_j |a_i \rangle =0 \tag{5}$$ が成り立つ.$i=j$ のとき,$\langle a_i |a_i \rangle \neq 0 $ なので $a_i=a_i^{*}$ である.複素共役が不変なので $a_i$ は実数である.つまり,エルミート演算子の固有値は実数であることが示された.
(b)の証明
エルミート演算子の固有値が実数であることが先ほど示されたので $a_j^{*}= a_j$ である.よって $i \neq j$ のとき,$a_i - a_j^{*} = a_i - a_j \neq 0$ なので,式(5)より $\langle a_j |a_i \rangle = 0$ である.つまり,異なる固有値に対応する固有状態は直交する.